野村萬斎 版・NHK「鞍馬天狗」 放送スタート!!


萬斎さんがテレビドラマに出るのは久しく、
NHKドラマ 『蒼天の夢』(2000年)で、高杉晋作役に出演したのが、
最後ではないだろうか。
1/24現在では、すでに二話放送済みです。
すでに萬斎さんと近藤勇役の緒形直人さんが、
特筆してすばらしいと絶賛されています。
NHK木曜ドラマ「鞍馬天狗」のサイト
http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/kuramatengu/


<キャスト>
· 小野宗房(鞍馬天狗):少年時代 新角友規 ⇒ 野村萬斎
· 白菊:京野ことみ
· 近藤勇緒形直人
· 土方歳三杉本哲太
· 桂小五郎石原良純
· 幾松:羽田美智子
· 黒姫の吉兵衛:徳井優
· 浦部甚太夫苅谷俊介 第1回
· 小野宗行:村井国夫 第1〜2回
· 中原富三郎:山口馬木也 第2回
· 尾形俊太郎:一岡裕人
· おつる:一木美貴子 ほか


久々の萬斎さん!!やっぱりかっこいいです。
あの涼やかなる眼差し、静かで落ち着いた雰囲気の中の迫力ある演技、
美しい立居振る舞い、運動神経抜群の立ち回り。
とくに闘いのシーンでの太刀裁きはまさに華麗。


しかし、複雑な部分もあります。
私は司馬遼太郎作「燃えよ剣」の原作と
栗塚旭さん扮する土方歳三のファンなので、
新撰組が極悪に描かれているのが胸が痛いです。
特に、杉本哲太扮する土方歳三・・・・
まるで極悪人じゃあないですか。あれじゃぁ。
生理的に好まないです。あの歳さん像。
確かに冷徹ですが、いつでも冷静沈着で頭の切れる人物です。
あれでは、ただの人斬り大好き人間じゃないですか。
せっかくの萬斎さん主演なんだけど、本当に複雑。


その中でも、緒形直人さん扮する近藤勇
なかなか魅力的に演じられているのが、唯一の救いです。
どうやら、「鞍馬天狗」での近藤勇は、
そこまで悪人として扱われていないようです。
むしろ、鞍馬天狗とは奇妙な縁で友情まで芽生えるような、
そんな関係みたいです。


しかしその近藤とは切っても切れない強い絆で結ばれている
土方歳三をあそこまでひどく描くかなぁ。
わざと対照的に描いているだろうけど。
新撰組の悪の部分は、すべて土方歳三によるものだ・・みたいな。
実際、歳さんは、その悪の部分を
わざと自分で背負っていたところはあると思いますが。
局長・近藤勇の信頼を高くするため、自分は悪人でも良いのだと。
副長が憎まれても、局長が慕われていれば、
新撰組がゆるぐことは無いと。
そういう部分はそっちのけで、さすが尊王派主人公の作品だけあって、
とにかく新撰組を悪にしたてたいというのが
原作者の意図なんでしょう。きっと。
所詮、ヒーローものだから仕方ない。割り切って楽しむ方向へ努力します。


考えてみると、萬斎さんのテレビドラマ主演は初じゃないかな?!
それだけでも、とても貴重なドラマです。

私の知る、メディアでの萬斎さん

狂言師野村萬斎さんですが、
オイディプス王」や「ハムレット」などの舞台に立ったり、
大河ドラマなどに出演したりと、
狂言師としての演技の幅を広げようと色々な事に挑戦しています。


彼は、狂言師としての自分にプラスにならないものには、出演しません。
テレビドラマに出るときも、現代ドラマなどには出演しておらず、
常に歴史もの・時代ものなどを選んで出ています。
舞台も、シェイクスピアなどの古典劇です。

映画、初出演作「乱」

初めて彼がメディアに出たのは、黒澤監督の「乱」という映画でした。
私は、当時映画館で見ましたが、(当時、私は高校生でした)
その時は無名であった彼を気に留めることはありませんでした。
確か、盲目の少年役だったと思います。
髪は長く、ほとんど顔も隠れていたように思います。
ただ、役としては心に残っていて、
狂言師ならではの華麗に舞う姿などは、ほのかに印象に残っています。
その時はまだ「萬斎」という名を襲名する前だった為、
本名(野村武司)でクレジットされています。

テレビ初登場!! 大河「花の乱

襲名後、初めて出演したテレビドラマが
NHK大河「花の乱」(1994年)細川勝元 役でした。
私が、萬斎さんを認識したのは、このドラマが初めてです。


歴史上悪名高い悪女、日野富子(三田佳子)演じる応仁の乱
当時の大河ドラマは、すでに興味を失っていたため、
断片的にしか見なかったのですが、
その中でも、萬斎さんの演技だけは癖になって見ていたことを思い出します。


最初から衝撃的でした。
若そうに見えるのに、
迫力ある目力とお腹の底から出てくるような低い声。
回を重ねるうちに、さらにその迫力は増し、
最後の堂に行った老け役は圧巻。


舅役の萬屋錦之助(山名宗全 役)との演技合戦は本当に見応えがありました。
往年の素晴らしい役者さんにも一歩もひけをとらない演技でした。
萬斎さん著「萬斎でござる」で告白していますが、
初めてのテレビドラマでは、
最初の方は瞬きを我慢するのに精一杯だったとか、
狂言では目で演技を表現する事は皆無だから、
とにかく目の演技が難しかった・・・などと書かれていました。


その裏話を踏まえて、去年、時代劇専門チャンネルで再放送されていた
花の乱」を改めてちゃんと見てみました。
萬斎さんの苦労が伝わってきました!!
確かに、最初の回の方では、
目がピクピクと瞬きを我慢している様子が分かるんです。
それから、萬屋錦之助さんから自称、盗んだと言われる「目の演技」。
だんだん良くなっていくのが分かります。
決して、大げさな振る舞いはなく、静なる中の「目の演技」。
そして、あの迫力ある低い声。
ほんとうにシビレましたー!!


当時は、話を断片的に見ていたため、
あまりストーリーや演出・脚本等を重視していなかったですが、
改めて見ると、その面白さにびっくりしています。
特に最近の時代劇や大河ドラマが面白くないので、
ものすごく良い作品に思えてしまいます。
乱が終わり、萬斎さんと萬屋さんの出番が無くなってから、
全く面白味がなくなってしまったのが残念でした。


しかし、このドラマほど応仁の乱を分かり易く、
面白く、とても興味深く描いているテレビドラマは、
今も昔もこれが唯一の作品だと思いました。
大体、室町時代は取り上げられる事が少ないですし。
しかし、複雑です。人間関係が。だから、面白かった。

≪萬斎≫の名を全国に知らしめた「あぐり

NHK朝の連続テレビ小説あぐり」(1997年)のエイスケ役は、
みなさんご存知の方が多いと思いますが、
彼が全国的に知られるようになったきっかけの作品です。


私は、この作品がとても大好きです。
あぐり役の田中美里さんも、
新人ならではの新鮮な演技が光っています。
彼女の内面からにじみ出てくる純粋さが、
あぐり」にピッタリなんです。かわいかったなぁ。


もちろん、エイスケ役の萬斎さんは、言うことないくらい魅力的でした。
自由奔放で家にも留まる事が少なく、外にも女の人を作ったりと、
一般的には女性の敵みたいな人物なのに、
なぜか憎めない個性あふれるエイスケを
萬斎さんの個性で魅力的に演じておりました。
ピンと背筋をのばした清々しい立居振る舞い。
それでいて、茶目っけたっぷり。


また、あの萬斎さん特有の几帳面な雰囲気が、
田中美里扮するノンビリした「あぐり」とお似合いでした。


NHKドラマ 『蒼天の夢』(2000年)は、残念ながら見逃してしまいました。
高杉晋作役だったそうですが、見た人の話では、
萬斎さんのファンではない人が彼の好演を絶賛していたので、
ほっとしました。


萬斎さんのファンになってから、狂言にも興味を持ちはじめ、
実際に見に行ったりもしました。
狂言初心者対象の舞台で、分かり易く解説してくれたりして、
とても楽しかったです。
他にも、テレビで稀に放送される萬斎さんの狂言などを見たりして、
もともと歴史好きの私にとっては、
この日本の伝統芸能はとても入り易い興味深いものでした。


しかし、萬斎さんに興味を持たなかったから、
きっと狂言や能をちゃんと見ることは無かったし、
萬斎さんをテレビで知って、
このように狂言にも興味を持った人は少なくないと思います。
萬斎さんの果たしている役割は狂言界にとって、
本当に大きいものなんじゃないかと思います。